認知アーキテクチャ

 認知アーキテクチャは認知モデルを作るためのプラットフォームです。人間の認知システムの構造に関わる理論であり、認知モデルを作るためのプログラミング言語であり、認知モデルを作るときの制約かつライブラリでもあります。認知アーキテクチャにタスクや個人に固有の知識・パラメータを加えることで、個別の認知モデルが構築されます。

 巨人の肩に立つという言葉がありますが、森田はアーキテクチャをゼロから作ることに関心がありません。認知アーキテクチャは一人の研究者が作るものというより、多くの研究者が共同で作っていくものです。特に、現代の認知モデルのコミュニティにおいて、認知アーキテクチャはオープンプラットフォームとなっています。多くの研究者が共通のアーキテクチャの上にモデルを構築し、アーキテクチャの機能を拡張し成長させていっています。

 世の中には様々な認知アーキテクチャが作られています。森田は最近ではカーネギーメロン大学を中心に開発されるACT-Rという認知アーキテクチャを使って研究をしています。世界で最もよく使われ、最もよく整備されている認知アーキテクチャです。このアーキテクチャの上で、新たな認知モデルを構築すること、新たな認知モデルの応用を考えることで、人間とコンピュータに関わる研究に大きなインパクトが与えられるのではと考えています。

#実践的・現実的な理由で認知アーキテクチャを選択しています。以前は、構造写像エンジンという類推のエンジンが認知アーキテクチャになりうるのではと考えていたりもしました。

認知モデル

 認知モデルを主要なコンセプトとしています。残念ながらこの言葉は日本語として一般的ではありません*1。森田の考えと適合するの定義として、英語版Wikipediaの翻訳を示します (https://en.wikipedia.org/wiki/Cognitive_model)。


  • 認知モデルは動物(主に人間)の認知プロセスを近似するものである。この近似は、理解と予測を目的としている。認知モデルは認知アーキテクチャを使っても使わなくても作ることができる。
  • 認知アーキテクチャと異なり、認知モデルは単一の認知プロセス、もしくはプロセス間のインタラクション、特定の課題やツールに対する行動の予測に焦点をあてる。
  • 認知アーキテクチャは、モデル化するシステムの構造的側面に焦点をあてる。アーキテクチャは、認知モデル構築における制約を提供する。同じようにモデル構築を積み重ねることで、アーキテクチャの限界や不足が明らかになる。最も人気のあるアーキテクチャには、ACT-RやSoarが含まれる。

 誤解されがちですが、(少なくとも情報学の文脈で)認知モデルは、言語や図で表現されたモデルではなく、コンピュータに実装されたソフトウエアを指します。人工知能と言い換えてもいいですが、人工知能という言葉はもっと広い対象に対して使われています*2。認知モデルはあくまで、「人間の知性を理解するため模型」であることに特徴があります。認知モデラーとして、人間を超える知能を目指すのではなく、人間のように限定合理的*3に振る舞うソフトウエアの構築を目指しています。


*1 そもそも認知 (Cognition) という言葉が誤解の多い言葉です。法律用語で使われたり、ひどいときには疾患の方そのものを表現する使われ方をしたりしています。ここでは人間の脳の中で行われている情報処理一般を指しています。
*2  人工知能という言葉はバズワード化が顕著ですね。少し使いづらい言葉になってしまいました。
*3 社会科学一般で使われるようになった「限定合理性」という概念も元々は認知モデル研究の文脈においてH. Simonによって提唱されたものです。